第四話 転生の夜
「ついに金がたまったッス!! ばんざ~いッス!!」
魔王城の地下で、オイラは喜びを爆発させたッス。
他のプリニーたちは、朝からエトナさまに呼び出されて過酷な重労働をこなしているッス。
オイラもその一匹だったッスけど、こうなったら関係ないッス!
「仕事なんてやってられないッス! もうあんな地獄の日々からはオサラバっス!」
「へぇ……、プリニーのくせに、あたしの言うことが聞けないんだ? 死にたいの?」
「どひぇぇえええ~ッス! エトナさま、どうしてここにいるッスか!?」
振り返ると、残忍そうな笑みを浮かべたエトナさまがいたッス。超怖いッス!
「プリニーの数が足りなかったから、わざわざ見に来てやったのよ。今なら半殺しでカンベン
してやるから、さっさと持ち場につけっての」
「……イヤっス! オイラは働かないッス!」
「はぁ? 魔界に堕ちたアンタらは働くしかないのよ。人間だった頃に犯した罪の重さの分だ
け金を稼がないと、転生できないんでしょーが?」
「それなら給料のイワシを換金して、ギリギリ転生できる金がたまったッスよ! それに今夜
は赤い月が昇る『転生の夜』ッスからね。もうエトナさまの命令を聞く必要はないッス!」
「ちょ、それマジで言ってんの?」
エトナさまが驚いた隙に、オイラは一目散に逃げ出したッス。
「待てコラ! ……チッ、ならこっちも考えがあるわ。転生なんかさせてやるかっての!」
後ろからエトナさまの怒声が聞こえたッスけど、当然無視ッス。
「はぁはぁはぁ……追ってこないッスね……?」
地下から1階の広間に出たッス。エトナさまは……諦めてくれたッスかね?
「はぁ~~、走ったらノドが乾いたッス……」
そう呟くと、暗闇からガラガラと何かを押してくる音が聞こえてきたッス。
「只今ワゴン販売を実施中で~す。お弁当に冷たいイワシジュースはいかがですかぁ~?」
なんと、ちょうどいいところに車内(?)販売員がやってきたッス!
これは利用しない手はないッスね!
「お姉さん、イワシジュースひとつッス」
「まいど~! お代は『有り金全部と今後3年間タダ働き』で手を打ってやるわ」
「うひゃああ~~ッス! エトナさま!?」
販売員のお姉さんはエトナさまだったッス。どおりで胸がペタンコだったッス!
「アンタ今、ドコ見て何を考えた?」
「何でもないッス!!」
どうやらエトナさまの狙いはオイラの金らしいッス。冗談じゃないッス!
オイラは全速力でその場を離れたッス。
「いたたた……ッス」
エトナさまはどうにか撒いたッスけど、転んで羽をすりむいたッス。情けないッス。
傷口を押さえながら歩いていると、廊下のど真ん中に診察室のセットが現れたッス。
グラマーなナースさんもいるッス! これは利用しない手はないッスね!
「あのー、ケガをしたッスけど、診てもらえないッスか……?」
「いいわよぉ~? そんじゃ身体がしびれて動けなくなるお注射しましょうね~。ちなみに保
険はきかないから、治療費は『全財産と今後10年給料なし』になるわよ?」
「どひゃああ~~! またしてもエトナさまッスか~!?」
危うく騙されるところだったッス! その胸がニセモノだってことはすぐにわかったッス!
「……アンタ、言いたいことがあるならハッキリ言いな!」
「言ったら、殺されるッス!」
オイラはまたまた逃げ出したッス。
「カツアゲされたくなかったら、マッチを買ってくださ~い」
逃げた先にいたのはマッチ売りの少女……って、もう見間違えないッスよ!
「そのペタンコな胸はエトナさまッス!」
「テメェ! やっぱそれで判断してたのか!!」
「しまったッス! つい口に出てたッス~!」
エトナさまとの追いかけっこは夜まで続いたッス。空にはもう赤い月が昇っているッス。
オイラは魔王城から離れた荒野で、ガッツポーズをとったッス。
ふっふっふっ……この勝負、オイラの逃げ切り勝ちッスね!!
「もうすぐ転生が始まるわね……」
すぐ後ろにエトナさまが立っていたッス! まずいッス……捕まるッス!
「待ちな。もうアンタを連れ戻そうなんて思ってないからさ。今まであたしの家来として働い
てくれたんだし、最後くらいお祝いさせなさいよ」
「どういうつもりッスか? また何か企んでいるッスか!?」
「ったく、信用ないわね。まあ、アンタたちには辛くあたってたから無理もないか。今更水に
流してくれなんて図々しいことは言わないわ。せめて転生の瞬間くらい立ち会わせなさい」
「エトナさま……」
なんだかちょっとウルっときたッス。
オイラがボーッとしていると、エトナさまがイワシジュースを投げて渡してきたッス。
「さあ、アンタの門出を祝って乾杯しましょう」
「エトナさま、オイラ……嬉しいッス!!」
カチッと缶を合わせて、イワシジュースを一気に飲み干したッス。
美味いッス! こんなに美味いイワシジュースは今まで味わったことがないッスね!
ぷは~ッと息をつくオイラ。それを見たエトナさまが……ニヤリと笑ったッス?
「言い忘れてたけど、そのジュース、1億ヘルもらうわよ?」
「……ま、まさか、騙したッスか~~!!」
「今頃気づいても遅いっつーの! これで転生は出来ないわよねぇ。そんじゃ、明日からもし
っかり働いてもらうわよ!」
オイラはエトナさまに首根っこを捕まれると、魔王城に向かってズルズルと引きずられてい
ったッス。
鬼ッス! 悪魔ッス~~!!