おかしいぞ?
オレさまが二度目の昼寝から目覚めると、寝床にしていた棺桶のフタが開いていた。
確か寝る前に閉めたはずだが……。
疑問に思いながら立ち上がってみる。……むむ? 腰の辺りが妙に重い。
「なんだこのベルトは!?」
見ると、いつもの黒革ではなく銅合金でできたゴツいオモチャのベルトが巻かれていた。
盛り上がったバックル部分は丸くくりぬかれ、中心に風車のような羽根が重なっている。
当然、オレさまのものではない。
「くそっ、どうやったら外れるのだ!?」
隙間なく腰に食い込んだベルトは、どこを探してもつなぎの部分が見当たらない。
一体誰だ? ふざけたマネをしたヤツは……。
「ようやくお目覚めですね、ラハールさん。いえ……、ニジイエロー!」
突然響く声。それを合図に、部屋の隅でスポットライトが点灯した。
浮かび上がったのは、赤い戦隊ヒーローの衣装を着たフロンだ。プリニーを左右に一匹ずつ連れて、扇形のポーズをとっている。ハッキリ言って、見ているこっちが恥ずかしい。
「ニジイエローだと?」
「はい。日曜朝の人気番組『虹色戦隊ニジレンジャー』に登場する正義の戦士です。ラハールさんが今装着しているのは『ニジイエロー変身ベルト』って言って、わたしが魔界通販で買った最新グッズなんですよ」
得意げに「むふぅ」と鼻を鳴らすフロン。どうやら犯人はコイツのようだ。
「勝手なマネをするな! さっさと外し方を教えろ!」
「もちろん教えますよ。わたしたちとヒーローゴッコをたっぷり楽しんだ後になりますけど」
満面の笑みで言いやがった。
「お前らの低レベルな遊びに付き合ってられるか! だったら、力ずくでも外してやる……。この……! ぐぐぐ……おおおおおぉぉ~~!」
オレさまはベルトを力任せに引っ張ってやった。だが、ビクともせん。
子供だましのオモチャのくせに、なんたる強度だ。
「ムダですよ。ゴーレムが百万回踏みつけても壊れないらしいですから。さすがは信頼と実績のオモチャメーカー! いい仕事してます!」
オモチャメーカー本気出しすぎだろ!
「それではメンバーをご紹介しますね。こちらのプリニーさんがニジブルー。変身すると、ちょっぴりニヒルなナイスガイになります」
フロンの右隣にいたプリニーが、照れながら頭をかいた。
つーか、そんなヤツはどうでもいい。
「くっ……、オレさまは絶対変身などせんぞ……」
「強情ですねぇ。仕方ありません、少し気が引けますけど、無理にでも変身してもらいましょう! ポチッとなっ!」
フロンが手のひらサイズのリモコン(?)を取り出して、そのボタンを押した。途端、オレさまのベルトから耳障りなモーター音が鳴り、バックルの羽根が勢いよく回り出した。
「なんだ? 何をした!?」
「その変身ベルトは遠隔操作でも起動するようになっているんですよ。バックルの上あたりにカウンターが見えますよね? それが0になると強制的に衣装が変わる仕組みです♪」
言われてバックルに目をやると、確かにちっこいデジタルカウンターがあった。
43……42……。
まずい、どんどん数字が減っていくぞ……!
「残り40秒くらいですかね? ほら、スパイシーな香りが漂い始めましたよ?」
「ちょ、なぜカレーの匂いがするのだ!?」
「決まってるじゃないですか。ニジイエローはカレーが大好物だからです! ……甘口しか食べられない設定ですけど」
「意味がわからん! あと、そいつ絶対カレー苦手だろ!」
カウントは……20!?
このままではフロンの思う壺だ。魔王のプライドにかけて、それだけは我慢ならん!
「くそっ……オレさまは諦めんぞ! フルパワーで引きちぎってくれる!」
「んもう、往生際が悪いですよ? 潔く変身して、一緒に決めポーズの練習をしましょうよ」
「うるさい! ……ぐおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
オレさまは渾身の力でベルトを引っ張り続けた。
両腕の血管が千切れそうだが、構うものか!
残りあと6、5、4、3……!
「魔王の力を舐めるなぁぁあああ~~!!」
まさに衣装チェンジの発光が起ころうとしていた、そのとき――
ガインと、恨めしそうな音色をあげてベルトが壊れた。
「ああああああッ!! なんてことしてくれるんですか~!!」
バタバタと駆け寄ってきたフロンが、床に散らばった残骸の前で膝をつく。
もはやガラクタ同然のそれを手に取って、がっくりと肩を落していた。いい気味だ。
「ハ~ハッハッハッハッハッ!! 思い知ったか! 素直に外さんからそうなるのだ」
危なかった。
あと1秒でも遅れていたら、ひどい醜態を晒すところだったぞ。
これで一安心だ……。
だが、それが油断だった。
ベルトを失って緩んだオレさまのズボンが、
「ひどいです、ラハールさ……」
怒りながら顔を上げたフロンの目の前で、
ストン――
と、床に落ちた。
「きゃぁあああああああああああああ!!」
正義の味方の鉄拳を受けたオレさまは、不本意にも三度目の昼寝をすることになった……。