ディスガイア D2

SPECIAL

◆ショートストーリー

第五話 新しい寝室

 魔界に来て初めての夜。
 魔王城に住めることになったのはいいんだけど、当然あたしの部屋はなかった。
 どこで寝たらいいんだろう? ラハールお兄ちゃんに聞いてみればわかるかな?
 そう思って寝室をたずねたのに……、
「知らん。好きなところで勝手に寝ればいいだろう?」
 お兄ちゃんはあたしを無視して棺桶に入っちゃった。そのまま寝るつもりだ。ひどい。
「……じゃあ、お兄ちゃんと一緒に寝てもいい?」
「アホか! ダメに決まっているだろう! とっとと出て行け!」
 好きなところで寝ていいって言ったくせに。わけわかんないよ。
「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ!? 兄妹なんだよ?」
「うるさい。そんなこと信じられるか! 仮に妹だとしても一緒に寝るなどおぞましいわ!」
 お兄ちゃんは棺桶のフタを乱暴に掴んで閉じちゃった。もう話すら聞いてくれないみたい。
「いいもん……お兄ちゃんなんか当てにしないから!」
 あたしはちょっぴり頭にきて、お兄ちゃんの寝室から飛び出していた。

「どこに行こう……」
 ベッドがいいだとか、ぜいたくは言ってられない。せめて暖かい部屋で休みたいんだけど。
 とにかく一つ一つ見て回るしかないよね。
「アンタ、何してんの?」
「あ、エトナさん」
 廊下でウロウロしていたところに、エトナさんが声をかけてくれた。
 この人なら、なんとかしてくれるかも?
「あの、あたし魔王城に来たばっかりだから、寝るところがなくて……」
「ふーん」
「お兄ちゃんにも聞いたんだけど、勝手にしろって知らんぷりされちゃって……」
「なるほどなるほど」
「だから、その、あたしはどこで寝たらいいのかな?」
「さぁ?」
 聞くだけ聞いたエトナさんは、どっかに行っちゃおうとした。
 ちょっと、そんなのってないよ!
「待ってよ! お願いだから、どの部屋が空いてるのかくらい教えて!」
「あーもう、ウザい。どこも悪魔でいっぱいよ。アンタみたいな天使が行ったら、
どんな仕打ち受けるかわからないわよ?」
「そんな……」
「ああ、でもフロンちゃんなら泊めてくれるかもね。この廊下をまっすぐ行って突き当たりの部屋よ」
「あ……ありがとうエトナさん!」
「礼なんていらないから、金を出しなさい。案内してあげたんだから、当然でしょ?」
「……そ、そうだね」
 あたしは天界から持ってきた貯金箱をエトナさんに渡して、フロンさんの部屋に向かった。

 事情を説明すると、フロンさんはあっさり部屋に入れてくれた。
 中には数え切れないほどの戦隊ヒーローフィギュアとアニメDVDが置いてあってびっくり!
これ全部集めるのって、どれくらいかかったんだろう?
「お布団は一枚しかないですけど、二人で仲良く使いましょう」
 お兄ちゃんたちと違って、フロンさんはすごく優しい。なんだかホッとする。
 あたしは何度もお礼を言って、先に布団に入らせてもらった。だけど……
「虹色戦隊~♪ ニジレンジャー~~イヤァ!」
 もう深夜なのに、フロンさんはテレビに釘付けで全然寝ようとしてくれない。
「フロンさん、あの……」
「あら、シシリーさんまだ起きていたんですか? わたしのことは気にしないで、寝ていてくれていいんですよ?」
「……うん」
 親切にしてくれたフロンさんに、「静かにしてほしい」なんてワガママは言えない。
 それに、このまま一人で布団を使っちゃうのも悪い気がする。
 考えた末に、あたしは枕だけ持ってそっと部屋を出た。

 結局、お兄ちゃんのところに戻ってきちゃった。
 あれ? 棺桶のフタが開いてる?
 近づいてみると、毛布をグシャグシャに掛けたお兄ちゃんが、大きないびきをかいていた。
 もしかして、寝ている間にフタを蹴り飛ばしたのかな? すごい寝相……。
 あたしはペタンと座って、お兄ちゃんの棺桶に背中をもたれかけた。
「はぁ……あたし、ここでやっていけるのかな……?」
 天界に戻りたいとは思わないけど、この分だと魔界にも馴染めそうにないよ。
 枕をキュッと抱いてゆっくり目を閉じると、あたしはそのまま眠ってしまっていた……。

「うぅ~ん……、あれ……この毛布って……?」
 朝になって目が覚めると、お兄ちゃんが使っていた毛布が身体に掛かっていた。
 まさか……あのお兄ちゃんが、あたしのために? ちょっと信じられない。
「おい、いつまでオレさまの部屋にいるつもりだ? 起きたなら、すぐに出て行け」
「あ、お兄ちゃん」
 部屋の入り口でお兄ちゃんが腕を組んでいた。毛布のお礼、言ったほうがいいよね。
 あたしが駆け寄ると、お兄ちゃんはプイッとそっぽを向きながら、握った手を出してきた。
 あ、お金を払えってことかな? でも、もうエトナさんに全部あげちゃったし……。
「さっさと受け取れ。お前の部屋の鍵だ」
「え?」
 慌てて手を出すと、お兄ちゃんが真新しい鍵を渡してくれた。
 だけど、どうして?
 驚くあたしを見て、お兄ちゃんはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「毎晩オレさまの部屋に来て、妙な寝言を聞かされてはたまらんからな」
「寝言? ……あたし、何か言ってたの?」
「さあな」
 お兄ちゃんはそれ以上教えてくれなかった。けど……。
 もらった鍵を握り締めて、あたしはようやく魔王城に迎えられたような、そんな気がした。